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福島地方裁判所郡山支部 昭和63年(ワ)92号 判決 1990年10月04日

原告

安藤和平

斎藤利幸

原告ら訴訟代理人弁護士

大堀有介

柳沼八郎

安部洋介

齋藤正俊

荒木貢

佐々木廣充

浅井嗣夫

渡邉正之

安藤裕規

若松芳也

幣原廣

その他五七名

被告

右代表者法務大臣

長谷川信

被告

福島県

右代表者知事

佐藤栄佐久

被告ら指定代理人

中野哲弘

外六名

被告福島県指定代理人

斎藤昭二

外四名

主文

一  被告国は、原告安藤和平に対し金五〇万円、同斎藤利幸に対し金二〇万円及びこれらに対する昭和六三年四月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告国に対するその余の請求及び被告福島県に対する請求をそれぞれ棄却する。

三  訴訟費用中、原告安藤和平及び同斎藤利幸に生じた費用の各二分の一ならびに被告国に生じた費用については、これを一〇分し、その三を原告安藤和平の、その五を同斎藤利幸の、その二を被告国の各負担とし、原告安藤和平及び同斎藤利幸に生じたその余の費用ならびに被告福島県に生じた費用については、これを二分し、その一を原告安藤和平の、その余を同斎藤利幸の各負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、連帯して、原告安藤和平に対し金二〇〇万円、同斎藤利幸に対し金一〇〇万円及びこれらに対する昭和六三年四月八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者間に争いのない事実

一当事者

1  原告らは、福島県弁護士会所属の弁護士であるところ、被疑者T・O(以下被疑者Oという。)にかかる恐喝未遂被疑事件の弁護人であった者である。

2  被告国は、右被疑事件に関し、福島地方検察庁郡山支部検察官甲野一郎(以下甲野検察官という。)、同乙川二郎(以下乙川検察官という。)を使用して、同事件の捜査及び被疑者勾留の職務を遂行させ、もって公権力の行使にあたらせていた。

3  被告福島県(以下被告県という。)は、同県の設置管理する代用監獄郡山警察署留置場において、同署司法警察員丙沢三郎を留置副主任官(以下丙沢留置官という。)として、被疑者Oに対する留置業務を遂行させ、もって公権力の行使にあたらせていた。

4  被疑者Oは、昭和六二年一二月四日(以下同年の日付については、年表示を省略する。)、恐喝未遂容疑で逮捕され、同月五日より代用監獄である郡山警察署に勾留され、併せて刑事訴訟法(以下刑訴法という。)第八一条の接見禁止決定を受けた。

勾留は、一二月一四日に同月二四日まで延長された。

5  原告安藤和平(以下原告安藤という。)は、一二月四日、同斎藤利幸(以下原告斎藤という。)は、同月一日、それぞれ被疑者O本人より弁護人に選任された。

二接見の経過

1  一二月九日(水曜日)の経緯―その一

原告安藤は丙沢留置官に電話をかけ、被疑者Oとの接見を申し入れたところ、同人から接見禁止になっている旨言われた。

2  一二月九日(水曜日)の経緯―その二

原告安藤は、同日午後一時五分ころ、甲野検察官に対し当日午後四時以降の被疑者Oとの接見を申し入れたところ、同検察官は、同日午後四時以降は同被疑者の取調べ予定であると言った。

3  一二月一〇日(木曜日)の経緯

原告安藤は、同日午前九時ころ、甲野検察官に対し、被疑者Oとの接見を電話で申し入れたところ、同検察官は同日午前九時三〇分ころ、午後四時からの接見のための具体的指定書を検察庁に取りにきて欲しい旨の電話をかけなおしてきた。そこで同原告は、同日正午近く、福島地方裁判所郡山支部に対し、右検察官がなした一般的指定処分の取消を求める準抗告を申し立てたが、同日夕刻同申立を認容する旨の決定(昭和六二年(む)第三〇号、以下第一次準抗告決定という。)を得、右決定は確定した。

4  一二月一二日(土曜日)の経緯―その一

原告安藤は、一二月一一日午前九時三〇分ころに事務員を介して、甲野検察官に対しその翌日である一二日午前午後のうちの一時間程度の接見を申し入れたところ、同検察官は、一一日午後一時四〇分ころ同原告の事務所に電話をかけ、事務員に、「一〇日の準抗告認容決定の内容は一般的指定を取消したにすぎない。接見日時の打合せのため明日午前九時半に検察庁に来庁されたい。」と言った。

同原告は、一二日午前九時ころ、前記準抗告認容決定書持参のうえ、郡山警察署において丙沢留置官に被疑者Oとの接見を求めたが、丙沢留置官は検察官の身柄であると発言した。

5  一二月一二日(土曜日)の経緯―その二

原告安藤は、一二日、前記裁判所支部に対し重ねて準抗告を申し立てたところ、同日決定(昭和六二年(む)第三一号、以下第二次準抗告決定という。)を得、右決定は確定した。

同原告は、同日午後六時過ぎころ、甲野検察官に対し被疑者Oとの接見を求め、接見指定は口頭でなすよう求めた。

同原告は、同日午後七時ころ地検郡山支部に出向き、翌一三日(日曜日)午前一〇時から同一一時五〇分までの間の一時間とする接見指定書を受領し、一三日午前一一時一八分から午後〇時三〇分まで接見した。

6  一二月一七日(木曜日)の経緯

事件の担当を交替した乙川検察官は、一二月一六日、原告安藤に対し、「被疑者Oの接見について打ち合わせをしたいので来庁されたい。希望の一時間は長過ぎるので、二〇分位にしてもらいたい。」と電話で言った。

これに対し、同原告は、「一時間位では捜査の障害になるとは思えない、指定するというのであれば、口頭でやって欲しい。」と回答した。

同原告は、原告斎藤と共に、同日午後六時半過ぎころ、地検郡山支部に出向き、同所で、一二月一七日午前九時から同一〇時までの間の四五分とする接見指定書を受領し、一七日午前九時五分から同一〇時二分まで接見をなした。

7  一二月一九日(土曜日)の経緯

原告斎藤は、同日午前、郡山警察署に出向き、丙沢留置官に接見を求めた。

同留置官が乙川検察官に電話をしたところ、同検察官は在庁していた。

同原告は、その場から地検郡山支部に出向き、同日午前一〇時四〇分から同一一時二〇分までの間の三〇分間とする指定書を受領し、午前一〇時五八分から同一一時三三分まで同安藤と共に接見をなした。

8  一二月二三日(水曜日)の経緯

原告安藤は、一二月二二日午後六時ころ地検郡山支部に出向いて、乙川検察官から、翌二三日午前九時から三〇分間とする接見指定書を受領し、指定のとおりの接見をした。

三福島県下においては、福島地方検察庁次席検事は福島県警察本部に対し、接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人等から監獄の長に宛てて右被疑者との接見の申入れがあった場合、検察官が接見指定の要件について判断する機会を得るため、弁護人等が接見のためいわゆる代用監獄に来訪している旨を担当検察官等に連絡するよう事前連絡指示をしている。

第三原告らの主張

一事実経過

1  接見妨害の態様

(一) 一二月九日(水曜日)の接見妨害

原告安藤は、被疑者Oが逮捕された直後の一二月四日に接見した後、勾留後初めて同人に接見するため、同月九日午後一時ころ、丙沢留置官に対し、同日午後四時以降の同被疑者との接見を申し入れたところ、同留置官より、担当検察官発行の具体的接見指定書を持参しない限り接見を認めることはできない旨言われた。そこで、同原告は、同日午後一時五分ころ、甲野検察官に対し電話で重ねて接見を申し入れたところ、同検察官から、同日午後四時以降は被疑者Oの取調べ予定であるし、接見指定書を持参しなければ接見を認めない旨言われた。

(二) 一二月一〇日(木曜日)の接見妨害

前記第二、二3のとおり

(三) 一二月一二日(土曜日)の接見妨害(1)

原告安藤は、一二月一一日午前九時三〇分ころ、甲野検察官に対し接見を申し入れた際、被疑者Oが接見を待っているので接見したい旨付け加えた。

(四) 一二月一二日(土曜日)の接見妨害(2)

第二次準抗告決定後、原告安藤が電話にて同決定の趣旨どおりによる被疑者Oとの接見を求めたのに対し、甲野検察官及び丁海四郎次席検事から、前同様、検察庁へ来庁して指定書を受領し持参しない限り接見を認めないと言われたので、同原告は、前同二5のとおり、同日午後七時ころ地検郡山支部に出向いた。

(五) 一二月一七日(木曜日)の接見妨害

原告安藤は、一二月一四日午後四時四〇分ころ、乙川検察官に対し電話をかけ、一六日午後一時から同六時までか一七日午前午後のうちの一時間、被疑者Oとの接見を求めたところ、同検察官は、一六日午前九時一五分ころ電話をかけてきて、前同二6のとおり、「接見について協議をしたい。」と地検郡山支部への来庁を要請したため、原告両名は同支部に出向いた。

(六) 一二月一九日(土曜日)の接見妨害

原告安藤と同斎藤は、同日午前九時ころ、被疑者Oとの接見に関して乙川検察官に電話をかけたが、休暇で留守と回答されたため、原告斎藤は同日午前九時一五分ころ郡山警察署に出向き、丙沢留置官に接見を求めたところ、同留置官は相変らず、検察官の身柄であるので検察官の了解なしに勝手に接見させることはできないと言ったうえ、前同二7のとおり検察庁に電話連絡をとると、乙川検察官は在庁していて、接見指定書の受領・持参を要請した。

(七) 一二月二三日(水曜日)の接見妨害

原告安藤は、一二月二二日午後五時三〇分ころ、乙川検察官に対し電話をかけ、翌二三日の朝か夕方に被疑者Oと三〇分位接見したい旨申し入れたが、同検察官から前同様来庁と指定書の受領を要請された。

二接見交通権の意義と侵害について

1  接見交通権の意義

憲法三四条前段は、何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されることがないことを規定し、刑訴法三九条一項は、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下弁護人等という。)と立会なしに接見または書類もしくは物の授受をすることができる(以下全体を接見交通権という。)旨規定する。

この刑訴法三九条一項に定める自由な接見交通権は、右憲法三四条の弁護人依頼権の重要な内容をなす権利であり、かつ身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人等の援助を受けるための刑事手続上最も重要な基本的権利である。そして、被疑者、被告人の弁護人依頼権と表裏関係にある弁護人等にとってもその固有権の最も重要なものの一つである。すなわち、身体を拘束されている被疑者にとって、自己に有効な防御活動をし、公判に向けて自己に有利な証拠の収集、保全をなすためには、弁護人等に頼るほかないのであり、弁護人等もその職責を全うするためには、随時被疑者と接見し、被疑者の不安を取り除き、捜査機関の違法捜査の存否を監視し、被疑者にとって有利な証拠を探し出す作業をしなければならないからである。

したがって、身柄を拘束された被疑者と弁護人等との接見交通権は、右被疑者、弁護人等の双方にとって、憲法上保障された重要な権利なのである。

2  接見指定の要件について

(一) 接見指定の積極要件

刑訴法三九条三項は、その本文で、捜査機関に「捜査のため必要があるとき」は接見指定できる旨定めているが、右に述べたとおり、弁護人等の接見交通権が憲法の保障に由来する権利であるから本来最大限に認められるべきものであり、他方捜査機関による接見の指定は刑訴法が認めたあくまでも必要やむをえない例外的措置であることに鑑みれば、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限することは許されない(同項但書)。そして、「捜査のため必要があるとき」とは、捜査機関が、被疑者を取調べ中であるとか、検証、実況見分等に立ち会わせている等、現に被疑者の身柄を使用している場合であって、接見を直ちに実現するために捜査を中断しなければならないとするならばその支障が顕著な場合に限ると解すべきであり、また、一般的な罪証湮滅のおそれは含まないと解すべきである。

(二) 接見指定の消極要件

刑訴法三九条三項但書においては、捜査官による指定権の行使も「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するものであってはならない」ことが明示されている。これは、接見指定制度が合憲性を保つための要件である。したがって、次のような場合の接見指定は、たとえ「現に取調べ中等の捜査のための必要」があっても、直ちに取調べ等を中断して接見の機会を保障しなければ違法なものとなる。

(1) 第一回目の接見の申し出の場合

(2) 捜査機関や弁護人等の都合で長期にわたって、接見の機会が保障されていなかった場合

(3) 被疑者が弁護人との接見を希望する場合

(4) その他、特に家族の伝言等緊急に接見させる必要がある場合

加えて、指定積極要件が存在し、同消極要件が存在しない場合において、接見指定権を行使しようとする際にも、弁護人等と協議してできる限りすみやかに接見のための日時等を指定し、被疑者が防御ため弁護人等と打ち合せることのできるような措置をとるべきものである。

3  一般的指定の違法性

福島県下においては、第二、三に記載のとおり、福島地検から福島県警察に対し事前連絡指示をなしている。加えて、甲野検察官も昭和六一年八月二五日午後四時三〇分ころ代用監獄郡山警察署長に対し、今後接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人等から右被疑者との接見を求められた場合には、別に検察官の発する具体的指定に従って行われたい旨の指示をなしたが、これらはまさしく一般的指定書を用いない口頭の一般的指定であり、結局、被疑者と弁護人等との接見が一般的接見禁止状態にあったものである。一般的指定が発せられると、弁護人等は、被疑者の起訴ないし釈放に至るまでの間検察官が具体的に指定する日時・場所・時間以外の接見を禁止されることになる。これは、接見を一般的に禁止し、例外的に具体的指定によって解除するものであって、憲法三一条、三四条、刑訴法三九条に違反する違法な処分である。本件においては、原告らが郡山警察署の丙沢留置官に被疑者Oとの接見をさせるよう交渉をした際、または原告らが接見をさせるよう同検察官または乙川検察官と交渉をした際、これらの連絡の趣旨が原告らに通知され、原告らに対する処分として発せられた。

4  具体的指定書の受領・持参要求の違法性

刑訴法三九条三項は、検察官が接見指定をする場合の方式について明示していないが、接見指定自体厳格な要件のもとに許されるにすぎないのだから、単なる方式により弁護人の接見交通権を不当に制限、侵害するものであってはならない。本件のような具体的指定書の受領及び監獄への持参方式は、被疑者側と対立関係にある捜査機関側に発行権限を委ねることに最大の障害があるばかりでなく、その作成、伝達等に時間を要し、迅速な接見交通を害する欠点がある。弁護人が自らすすんで書面の受領・持参に赴いた場合ならともかく、本来自由な接見交通が保障されている弁護人に対して、このような欠点を有する書面の受領・持参を強制したり、これに従わないと接見交通を拒否、妨害するような指定方式が違法であることはいうまでもない。

したがって、弁護人が書面の受領・持参を拒んだ場合には、接見の早期実現を妨げない時間内で捜査内部で書面のやりとりを済ませるか、面前でまたは電話による方法等の口頭による指定を行うなど、適宜の方法によってこれを行うべきである。

5  取消決定後の一般的指定状態の継続

(一) 取消決定の意義

本件第一次及び第二次準抗告決定は、右のような口頭による一般的接見禁止、指定書の受領・持参要求という検察官の指定方式が全体として違法な処分であるとして取り消したものであり、適法に確定した以上、この裁判は以後同一事件について当事者たる関係行政庁を拘束すると解すべきである。したがって、取消決定を受けた行政庁は、直接の担当者の交替があったとしても、以後同一当事者の同一事項を処理するにあたっては、右裁判が違法とした判断に従い、同一の過誤を繰り返すことはできなくなる。

この場合、検察官は刑訴法三九条三項の接見指定権がなくなるわけではないが、右裁判によってこの指定権行使のあり方自体が否定されたのであるから、検察官としては、一般的指定のなされていない通常事件における接見の運用に戻らなければならない。その場合には、検察官は接見指定権を行使しない(したがって弁護人等に対する接見指定書の受領・持参要求もありえない)という運用が確立されていたことが明らかである。

(二) 本件における一般的指定状態は、いずれも適法に確定した各準抗告決定によって、二度にわたって、その違法であることが宣言され取り消されたにもかかわらず、甲野・乙川両検察官ならびに丙沢留置官は、決定を無視して一般的指定状態を続け、とくに、甲野検察官は丙沢留置官に対して第一次準抗告決定を無視するよう指示し、丙沢留置官はこの違法な指示に従ったもので、両者の行為は共同して、決定以前の不法行為にもまして強度の違法性を帯びるものである。

6  本件各接見妨害行為の違法性について

(一) 一二月九日(水曜日)について

(1) 留置担当官の指定書持参要求(一般的指定への服従)

丙沢留置官は、前記一1(一)のとおり原告安藤の接見がなされておらず指定消極要件が存在する場合であり、同原告が接見を申し入れた時点では被疑者Oは取調べを受けずに留置室に在監しており「捜査の必要性」もないのに捜査官である検察官の違法な一般的指定に従い、同原告の接見を拒否した。

(2) 甲野検察官の接見妨害

右(1)の指定消極要件が存在するうえ、単に取調べ予定というのみでは「捜査の必要性」の要件を充さず、接見指定はできないし、この日原告安藤が接見を求めたのは同日の午後四時以降の接見であり、実際、同日午後五時三八分から同六時一九分まで及び同七時二二分以降は取調べもしておらず、およそ「捜査の必要性」は考えられないにもかかわらず、甲野検察官は同原告の自由な接見を拒否した。

(二) 一二月一〇日(木曜日)の午前九時ころ、原告安藤が甲野検察官に対し、同日午前中の接見を申し入れた時点では、被疑者Oは取調べを受けず留置室に在監しており、なんら「捜査の必要性」は存在せず、かつ前記一1(一)のとおり指定消極要件が存在したにもかかわらず、甲野検察官は同原告の自由な接見を拒否した。

(三) 一二月一〇日に原告安藤が接見を申し入れた際、単に取調べ予定という状態であって「捜査の必要性」の要件を充たさないうえ、前記一1(一)のとおり指定消極要件が存在したにもかかわらず、甲野検察官は、同原告の意に反して指定書の受領・持参を強制する方式に固執し、その接見を拒否した。

(四) 一二月一二日(土曜日)について

(1) 甲野検察官の接見妨害

被疑者Oが弁護人との接見を求めており、第一次準抗告決定があるにもかかわらず接見指定にこだわって七日間もの長期にわたって接見させず、また単に取調べ予定というのみでは「捜査の必要性」の要件を充たさないのに、甲野検察官は原告安藤の接見を拒否し、さらに、留置官の独自の権限で処理すべき留置事務に不当に干渉した。

(2) 丙沢留置官による接見妨害

丙沢留置官は、前記のとおり原告安藤の接見がなされておらず指定消極要件が存在する場合であるのに、捜査官である検察官の違法な一般的指定に従い、かつ、第一次準抗告決定を無視して同原告の接見を妨害した。

(五) 一二月一二日(土曜日)の接見に関しては、被疑者Oが弁護人との接見を求めており、前記のとおり指定消極要件があるのに、第二次準抗告決定をも無視して接見指定にこだわり、長期にわたって接見を妨害したうえ、指定方式につき準抗告決定を無視して、原告安藤の意に反して接見指定書を受領・持参せしめた。

また、仮に甲野検察官が執務時間外であると考えて当日の接見を拒否したとするならば、同検査官には留置官の独自の権限で処理すべき留置業務に不当に干渉し、接見を妨害したという新たな違法性がある。

(六) 一二月一六・一七日(水・木曜日)について

原告らが希望した時間帯のうちには実際一時間以上も取調べがなされていない時間があり、また単に取調べ予定というのみでは「捜査の必要性」はなく、接見指定の積極要件を欠くにもかかわらず、乙川検察官は原告らの自由な接見を拒否した。

また、同検察官は、同人にも本件各準抗告決定の効力が及ぶのにこれを無視した違法があるうえ、協議に藉口して来庁を強制し、かつ原告両名に対しその意思に反して接見指定書の受領・持参を強要して接見を妨害をした。

(七) 一二月一九日(土曜日)について

(1) 乙川検察官の行為の違法性

被疑者Oは、前日には病院に押送されて診療を受けなければならないほど身体状況が悪く、身体の不調を訴えて原告らとの接見を希望していたものであり、また、原告らの接見は当日午前中にしなければ困難な状況にあったのであるから、指定消極要件が存在し接見指定はなし得ないにもかかわらず、乙川検察官は第一次及び第二次準抗告決定を無視し、かつ指定書の受領・持参を強要した。

(2) 丙沢留置官の行為の違法性

前記準抗告決定を無視して具体的指定書を持参しないことを理由に接見を拒否した。

(八) 一二月二二日(火曜日)に原告安藤が接見を希望した時間帯には実際に取調べがなされていない時間があり、また単に取調べ予定というのみでは「捜査の必要性」はなく、指定積極要件を欠いているうえ、当日は勾留理由開示が予定されていて、同原告は被疑者Oと接見して打ち合わせをする必要があったため指定消極要件があったにもかかわらず、乙川検察官は同原告の自由な接見を拒否したうえ、各準抗告決定も無視し、指定書の受領・持参を強要して接見指定を強行した。

三被告らの故意・過失

1  被告国(甲野・乙川両検察官の故意過失)

(一) 一般的指定処分による原告らの接見禁止という侵害の結果について

公務員の行為に前記のような違法性が存在するときは、反証がないかぎり右公務員に国家賠償法一条一項の故意または過失の存在が推認されるというべきである。

そうでないとしても、甲野・乙川両検察官は、いずれも口頭による一般的指定が検察庁から県警察に対して行われた場合には、結局弁護人等が具体的指定書を受領・持参しなければ接見できない状態が続くということを認識していたので、故意があったものであり、他方、既に昭和四八年当時においても検察官の行う一般的指定処分が違法であることが裁判例及び学説上確立されていたし、この後にも同様の判例が蓄積されていたのであるから、一般的指定処分が違法であることについて知らなかったとすれば重過失があるものといえる。

(二) 準抗告決定の存在と原告らの自由な接見が妨害されることについて

甲野・乙川両検察官は本件第一次、第二次準抗告認容決定の存在を知っており、当然にこれらの決定には従わなければならないのに、あえてこれに違反して、甲野検察官が「従前通りの取扱をすべき」旨を警察の留置担当官に指示し、乙川検察官が右口頭の一般的指定処分を放置すれば、その結果として原告らの自由な接見が実現されなくなるということを認識していたものであり、いずれも故意がある。

(三) 指定消極要件が存在したことについて

(1) 甲野検察官に関する指定消極要件は、①一二月九日から一二日までの、長期に接見が実現されていなかった事実、及び②一二月一二日の被疑者Oによる接見の希望がなされていた事実であるが、同検察官はいずれもこれを知っていたもので故意がある。

(2) 乙川検察官に関する指定消極要件は、①一二月一九日には、被疑者Oが身体的不調を訴えて接見を希望していた事実、及び②一二月二二日には、勾留理由開示の公判手続準備の為に原告らが被疑者Oに早急に接見しなければならなかった事実であるが、①については、被疑者Oの体調が悪いことは同検察官が本件捜査に携わった段階から承知していたのであるから、右指定消極要件について当然知るべきであったのに不注意にもこれを知らなかった過失があり、②については同検察官はこれを知っていたもので故意がある。

(四) 具体的指定書の受領・持参要求について

検察庁への来庁、指定書の受領・持参を原告らの意に反して要請していることは、甲野・乙川両検察官も知っていたので、同検察官らには故意があるし、前記のとおり、接見指定の要件がないにもかかわらず弁護人に対し具体的指定書の受領・持参を要求することには、少なくとも過失が存在する。

2  被告県(丙川留置官の故意過失)

(一) 監獄法に基づいて業務を執行する留置主任官は検察官の指揮如何にかかわらず、同法に則り独自の権限で接見等の監獄法上の業務を処理すべき義務を負うから、接見指定の要件の有無を吟味し、被疑者が在監していて要件が存在しないと判断した場合にはただちに被疑者と弁護人等との接見を実現すべき監獄法上の義務を負い、他方、取調べ等で在監しておらず接見指定の要件が存在すると判断した場合にのみ、被疑者と弁護人等の接見状況、被疑者の希望、身体状況等を接見指定権者に連絡すれば足りるのである。

被告国に対する主張のとおり、本件当時、一般的指定が違法であることは確立された裁判実務であるから、丙沢留置官は、その業務の重大な任務の一つとして接見を取扱う立場上当然一般的指定の違法なことを知るべきであったのに、これを知らずに検察官の違法な一般的指定処分に従って一二月一九日に原告らの接見を妨害したのであるから、少なくとも過失が認められる。

(二) 丙沢留置官は、裁判所の準抗告決定の存在を知っていたにもかかわらず、これを無視して検察官の違法な指示に従い原告らの接見を妨害したのであるから、故意がある。そうでないとしても、裁判所による勾留処分の執行機関である代用監獄にとってその裁判所の判断が検察官の指示に優越することは当然のことであって、これに反する検察官の指示が違法であることは当然に知ることができたはずであるから、過失がある。

四原告らの損害

1  以上記載のとおり、甲野・乙川両検察官及び丙沢留置官による一連の接見の妨害の結果、原告らが捜査段階での弁護人としての職責の遂行を阻害された。

すなわち、弁護士は、逮捕、勾留にかかる起訴前の弁護を依頼された場合、事実の調査把握、刑事司法手続の適正な確保と被疑者及び家族への説明、身柄拘束による不利益の回避及び検察官に適正な裁定処分を求めるという職責を負い、検察官はそれを受忍する義務があるところ、本件において原告らは、一二月一二日まで接見を拒否された結果、一三日までは全く被疑者O及び家族への説明等の職責を果たすことができず、さらにその他の職責も妨害され、その結果、同被疑者の防御の準備に支障をきたし、同被疑者もその妻等との間に職務を円滑に遂行するのに不可決な信頼関係を破壊されたものである。

加えて、原告安藤は、多忙を極める一二月に二度にわたり準抗告を申し立てざるを得なかったが、このように苦労して勝ち取った準抗告も、これを無視する甲野・乙川両検察官ならびに丙沢留置官のため、接見指定書を受領・持参せざるをえなかった。

2  以上により、被告らの接見妨害で原告らが被った精神的な損害は極めて顕著かつ著しいものであって、これを慰謝するには原告安藤については金二〇〇万円、同斎藤については金一〇〇万円を下らない。

第四被告らの主張

一被告国・同県共通の主張

1  捜査の必要性(指定権行使の要件)について

(一) 刑訴法三九条三項の「捜査のため必要がある」として指定権を行使しうるのは、被疑者の身柄そのものを利用して捜査を行っている場合にのみ限定されるものではなく、当該事案の性格、内容及び背景、事案の真相を解明するため必要な捜査の手段、方法、真相解明の難易度、捜査の具体的進捗状況、被疑者の供述状況、関係人の捜査機関に対する協力状況、弁護活動の態様等当該事案にかかるすべての事情を総合的に判断した場合に、弁護人等と被疑者との接見が直ちに行われたとしたならば、捜査機関が現に実施し、又今後実施することとなる被疑者、参考人の取調べ、証拠物件目録の捜索押収等の捜査手段との関連で、迅速かつ適正に事案の真相の解明が困難となるとき、すなわち、無制約な接見により事案の真相の解明を目的とする捜査の遂行に支障を生ずるおそれが顕著であると認められるときをいうと解すべきである。

(二) すなわち、同項は、接見交通権と捜査の必要性との調整を図るための規定であり、その解釈にあたっては、刑訴法の究極の目的である実体的真実の発見と刑罰権の迅速かつ適正な実現という使命を負っている捜査機関の必要性と、身柄を拘束されている被疑者の防御活動に極めて重要な意義を有する接見交通権との調和を保持しなければならないのである。そのためには、以下に述べるように、接見交通権と捜査権についての正当な法的位置付け、我が国の刑事手続における検察官の地位・役割と捜査手続上の制約、更にこれまでの我が国における捜査実務の実情等を考察し、刑訴法の文理にも即した的確な解釈が行われなければならない。

(1) 接見交通権と捜査権についての正当な法的位置付け

接見交通権は憲法三四条に由来する権利であるが、直接な法的根拠は刑訴法三九条三項に置いているのだから、その行使が同法の基本的な目的を損なうことになってはならない。同法の基本目的は、基本的な人権の保障に十全の意を用いなければならないことを重要な前提としつつ、究極的には事案の真相すなわち実体的真実を明らかにし、これに基づいて適正かつ迅速に刑罰権を実現することを目的としている。したがって、接見交通権の行使が公共の福祉の維持、事案の真相の解明に支障をもたらすようなものである場合において、法は当然被疑者の防御権行使に配慮しつつ、一定の制限がなされることを予定しているのであり、捜査権との妥当な均衡と調和が考えられなければならないのである。

(2) 我が国の刑事手続における検察官の地位・役割と捜査手続上の制約

検察官は、形式的には当事者の一方として刑事訴訟に関与するが、実質的には、公益の代表者として客観的な立場で公正誠実に職務を行うべき責務を負っている。公益の代表者として起訴・不起訴を決するにあたっては、前提として事件の実体的真実を明らかにし、十分な心証を形成するとともに情状面についても的確に把握することが不可決であって、それゆえ我が国の検察官は深く捜査にかかわってきており、これが我が国の刑事手続の基本となっている。

しかしながら、いわゆる身柄事件については、被疑者の身柄の拘束は最長二三日間であり、諸外国の法則と比べて短いうえ、関係者の出頭及び供述を確保する手段がなく、例外的に起訴前の証人尋問を請求できる場合を除き、専ら関係者の任意の供述を期待するほかないという制約を受けているのである。

(3) これまでの我が国における捜査実務の実情

刑事事件は多様であり、実体的真実の発見に至る捜査の過程も多様である中で、検察官が弁護人等の接見交通について指定するのは特殊例外的な事件に限られており、通常は弁護人等の自由な接見に任されて運用されているのであるから、具体的な検察官の捜査の進捗状況等に照らし適正な日時・時間の指定を行うことにより、検察官がその後の捜査の結果誤った心証を得ることを避け、実体的真実を発見することができることとなる。

(三) 仮に、「捜査のため必要がある」として接見指定権を行使しうるのは被疑者の身柄そのものを利用して捜査を行っている場合にのみ限定されるとした場合には、次のとおり極めて不当な結果が生ずることとなる。

(1) 現に被疑者の身柄そのものを利用して捜査を行っていない場合には具体的指定の要件がないから、接見の時間も含めて何ら指定もなしえず、ひいてはその指定の要否も判断しえないとすると、接見の要求がありさえすればただちに応じねばならず、また弁護人等の接見が続く限り、捜査官は取調べ等を行うことができないことにもなりかねず不合理である。

(2) 被疑者の身柄を必要としない捜査が予定されている場合でも、当該事案の内容、真相を明らかにする捜査方法、捜査の具体的進捗状況等によっては、無制約な接見により予定している捜査が初期の目的を達しえなくなり、迅速適正に事案の真相を解明するという捜査の初期の目的に照らし、捜査の遂行に支障を生ずる場合がでてくる。

(3) 刑訴法上、「捜査のため必要があるとき」と規定されており、「取調べのため必要があるとき」とはなっていないから、取調べ中等現に被疑者の身柄そのものを必要としている場合のみに限定するのは文理的にも不合理である。

2  国家賠償法(以下国賠法という。)一条一項の違法性の判断基準について

同項にいう違法性とは、公権力の行使にあたる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背すること、すなわち他人に損害を加えることが法の許容するところであるか否かという見地からする行為規範性であって、この行為規範性は処分ないし法的行為の効力発生要件とは性質を異にするのであるから、検察官の接見指定に関する所為が国賠法上違法とされるためには、右所為が単に刑訴法三九条三項に違背するだけでは足りず、接見指定権の行使が著しく合理性を欠くことが明らかであること、換言すれば、通常の検察官であれば当時の状況下における判断として何人も当該行為にはでなかったであろうと認めるに足りる事情のあることが必要である。ところで、刑訴法三九条三項は検察官が接見指定権を行使できるものとしているが、前提たる捜査の必要性の判断は、いままで主張したように、検察官が諸般の事情を総合勘案して検討すべきものであり、また接見指定権の行使方法も指定権者の合理的裁量に委ねられているので、いずれもその判断が著しく合理性を欠くことが明らかである場合にのみ国賠法上違法であるものといわねばならない。これを本件にあてはめれば甲野・乙川両検察官の所為には何らの違法性は存しなかったものである。

3  原告らの損害について

刑訴法三九条一項は被疑者との接見交通権を弁護人等の固有権として規定はしているが、この権利は被疑者の防御権の行使を補助するために刑事手続上検察官と相対立する弁護人等に対し、同手続上の権利として付与されたものであり、弁護人等の地位に就いた弁護士たる個人に対して被疑者の権利擁護とは関係なく与えられたものではない。

また、原告らは、甲野・乙川両検察官との折衝において、被疑者Oとの接見そのものを実現させることよりも、その接見指定を口頭で受けることを重要視しており、接見交通権の確立という原告らの信念として行動して、その信念のとおりにいかなったことを不服としているにすぎない。

刑訴法三九条三項の解釈の適否等については、本来準抗告の申立てによってその是正が図られれば足り、それに要する諸々の負担は弁護人としての通常の負担の範囲内のものである。準抗告により原告らの解釈が正当と判断されれば、それにより法律家の常としてこの点の精神的苦痛は慰謝されたものといえる。

以上により、原告らには損害が生じていない。

二被告国の主張

1  原告ら主張のいわゆる一般指定について

従来の検察実務においては、昭和三七年九月一日の法務大臣訓令事件事務規程二八条に基づき、個々の検察官が個別の事件毎に「接見等に関する指定書」を発しその謄本を監獄の長に送付するのが通例であり、この場合、監獄の長は、弁護人等が接見指定なく接見を求めてきたときは検察官の接見指定書がなければ接見させないという運用がなされており、これを一般的指定と呼んでいたものである。本件の場合はこれと異なり、福島地方検察庁次席検事が包括的に福島県警察本部に対してなした事務連絡に基づく運用であって、弁護人等からの接見申出が監獄の長に対しなされた場合に検察官が接見の具体的指定の要否を判断する機会を確保するため、主任検察官に右申出のあったことを連絡することを求めるという事務連絡を行っていたにすぎず、弁護人等と被疑者との接見を原則的・一般的に禁止する効力を有するものではない。よって、それ自体何らの処分性がなく、本来準抗告の対象にならないものであり、準抗告決定によりただちに捜査機関の接見指定権行使の内容が制約されるというものではなく、当該時点の捜査の必要性があれば接見指定権を行使できるのである。

本件において、甲野検察官は、昭和六一年八月二五日午後四時三〇分ころ郡山警察署長に対して口頭で一般的指定の連絡をしたこともないし、その結果被疑者Oと原告らとの接見を一般的禁止状態においたこともない。

2  捜査の必要性(指定権行使の要件)について

(一) 捜査権と接見交通権の法的位置付け

捜査機関の接見指定権は、捜査の必要、すなわち、犯罪の嫌疑がある場合に、公訴の提起、追行のために犯人を探索し、証拠を収集保全する必要から認められた権限であり、捜査の実施は、国家の刑罰権の必須の前提となるものであって、憲法三一条ないし四〇条の規定は国固有の権限としての刑罰権の存在を踏まえたものであるが、他方、刑訴法三九条一項に認められた接見交通権は、憲法三四条によって直接認められた権利ではなく、同条の趣旨に則って刑訴法により規定された権利である。したがって、憲法上、接見交通権と捜査権ないし接見指定権のいずれか一方が他方に優越するという関係は見いだしえないのであって、接見交通権と接見指定権は、相互の均衡、調和を保ちつつ運用されることが要請されているというべきである。刑訴法三九条二項が、接見交通権が「被告人または被疑者の逃亡、罪証湮滅……に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。」と定めていることからも、接見交通権は無制限とはいえないのである。

そして、右のように解することは、最高裁判所昭和五三年七月一〇日判決の趣旨に何ら反しないものであるし、その後の下級審判例は最高裁で審理中のものがあり、現在においても判例・学説上非限定説が確立しているものではない。

(二) 本件においては、原告らのいずれの接見申入れの際にも、捜査の必要性が認められたことが明らかである。

すなわち、本件は暴力団組長である被疑者Oが、同組事務所内で被害者を脅迫して金員を喝取しようとしたという事件であり、本件事案の真相の究明のためには被疑者及び関係者の供述しか証拠となりうるものが存しなかったところ、同被疑者は当初否認していたうえ、本件関係者はいずれも同被疑者と関連があって暴力団組長である同被疑者の影響力は大きいとみざるをえず、これら関係者に対し、あるいは関係者と通謀して罪証湮滅を図るおそれが大であったものである。

指定権行使の当否を検討するにあたっては、このような本件事案の具体的特質等も考慮されなければならない。

本件については、以下に述べるように、原告らに対する接見の妨害はなかったものである。

(1) 原告安藤による一二月九日午後一時すぎころの、同日午後四時以降の接見申し入れは、同時間帯に被疑者Oの取調べが予定されていた。すなわち、同被疑者は、逮捕後六日目に至っていたにもかかわらず喝取につき否認していたものであり、同被疑者については関係者の供述と対比しながらその動機に関して詳細かつ早急に、また目撃者については目撃状況等に関し、いずれも取調べの必要性があったもので、同原告の接見希望日時にはこれらの取調べの必要性があり、右日時に接見を指定しないのは「捜査のため必要があるとき」に該当するものである。実際、同日には、午前九時二一分から同一〇時四分までの診察のための護送や食事時間等を除き、午前八時三一分から午後七時二一分まで右被疑者の取調べが行われ、一二月一〇日にも午前一〇時から翌一一日午前〇時二五分まで実施された。

(2) 原告安藤による同月一〇日午後の接見申し入れは、甲野検察官から、同日四時以降に接見させる旨同原告に伝えてあるのであって、その方法もファクシミリの利用や事務員を介して行うことを検討したものであるし、取調べの予定及び必要性があり、捜査のため必要があるときに該当するものであることは、(一)のとおりである。

(3) 原告安藤による同月一一日午前の、一二日午前中の一時間の接見申し入れにつき主張する。

同原告の申し入れに対し、甲野検察官が検討して同原告の事務所に電話を入れると、同原告は出張で留守だったので、同原告と協議のうえ速やかに接見を実現させるべく、翌朝九時に検察庁に来庁するよう申し入れている。右協議が必要だったのは、被疑者Oが一一日の取調べで恐喝の犯意を認め始めており、引き続き取調べを継続して、詳細な供述を得たうえでこれを調書化する必要があり、これには相当な時間が見込まれるところ、一二日は土曜日で、取調べ担当者の執務の都合から午前中に一時間の接見は困難であったからである。実際、一二日午前八時二四分から午後〇時八分まで被疑者Oの取調べが行われた。

(4) 原告安藤による同月一二日の、同日(土曜日)または一三日(日曜日)午前中の接見申し入れは、一二日午後六時五分ころに突如なされたものであり、執務時間外の接見は監獄法施行規則一二二条に違反して認められない。

翌一三日午前中の接見については、甲野検察官は具体的指定書を検察庁に取りに来るようにとは言っていないどころか、来庁した右原告のため、土曜日の午後七時一五分を過ぎている時間帯にもかかわらず警察に電話するなどして、同原告の希望する一三日午前一〇時から同一一時五〇分までの間の一時間接見できるよう努力した。

(5) 原告安藤による同月一六日昼過ぎの、翌一七日の接見申し入れは、同原告は接見として一時間を希望したものであるところ、乙川検察官において、左記のような当時の本件取調べ状況からしてそのような長時間の接見指定は捜査の必要上困難であると認め、原告と協議する要があると考え、同原告に対しこの協議のための来庁を要請し、原告らの希望時間帯のうち四五分間を指定している。

当時の本件取調べ状況は、被疑者Oは一旦恐喝の犯意を認めはしたものの、その旨の調書は作成されておらず、その後再び否認するようになっていたため、残された勾留期間は八日のみであったので、早急に被疑者O及び関係者を取調べる必要があった。実際、被疑者Oについては、一六日は午前八時五〇分から午後六時五八分まで継続的に取調べが行われ、一七日も午前中から終日取調べが予定されていたし、その後も一二月二一日までかなり長時間の取調べが実施されたのであるから、捜査の必要があったものである。また、この時の接見指定の内容は、原告らと協議した結果であって、原告らもこれを了解していたものである。

(6) 原告による同月一九日午前九時一五分ころの接見申し入れについては、同時間帯に原告斎藤は直接郡山警察署に出向き、丙沢留置官に対し被疑者Oとの接見を突如求めたものであり、当時警察において、午前九時一〇分から昼休みまでの予定で同被疑者の取調べを行っていた最中であって、「捜査のため必要があるとき」に該当することは明らかである。加えて、(5)のような捜査状況であったのだから、乙川検察官が同原告と会って検討することは妥当な処置である。しかも、同検察官は、右原告と協議した結果、警察の取り調べを中断させて、同日午前一〇時四〇分から同一一時二〇分までの接見を認めて協力したものである。

(7) 原告安藤による同月二二日の、同月二三日または二四日の接見申し入れにつき主張する。

被疑者Oの勾留期間は二四日までとなっており、二三日午後三時には勾留理由開示手続が予定されていたにもかかわらず、同被疑者は依然として曖昧な供述に終始していたので、乙川検察官としてはさらに詳細な取調べを行ったうえ事実の真相を把握し、起訴・不起訴の最終処分を決定するという予定にしていたので、捜査の必要があったものである。現に、二三日には、勾留期間開示手続や接見、食事等の時間を除き午前八時五六分から午後五時三一分まで、二四日には午前九時二分から午後六時二七分まで、取調べ可能な時間に最大限の取調べが行われた。そこで、乙川検察官は接見指定のための協議を行うため、原告安藤に来庁を求め、同人と協議のうえ、接見時間を二三日午前九時から同九時三〇分までの三〇分間と定め、その旨の接見指定書を作成、交付して接見に協力したものである。

3  接見指定のための協議及び具体的指定書交付のため原告らに来庁を求めたことの適法性について

(一) 接見指定のための協議要請の適法性

接見指定権の行使は検察官の権限であり、最終的には検察官が接見の日時場所等を指定することになるが、接見指定が実行性あるためには接見指定権者と弁護人等が誠実に協議することが重要である。特に本件では、原告安藤の接見希望日時が常に曖昧であったことから、取調べ予定との調整を図るためにもその真意を確認する必要があったし、同原告が指定された接見の時間や時刻を遵守していなかったため、遵守するよう協議する必要があったものであり、協議の要請は適法である。

(二) 接見指定書の受領・持参要求の適法性

刑訴法三九条三項は検察官の具体的指定権の行使の方法について特に定めていないのであるから、同法は指定権者である検察官に対しその方式の選択を任せたものと解すべきところ、具体的指定書による指定の方法は手続の明確性を確保するとともに、接見場所での無用のトラブルを防止し弁護人等の接見交通の円滑化を図り、更には不服申立てがあった場合の審判の対象を明確にするなどの利点があり、極めて合理的である。

また、接見指定書及びその交付は、検察官が指定を検討した結果、書面上記載して渡すだけというものにすぎず、原告らの意思に反して来庁を強制したものではないし、接見指定書を持参しない限り原告らの接見を禁止するものでもない。

検察官の接見の具体的指定の方法の適否を判断するにあたっては、当該事案における被疑事実の内容、捜査の具体的状況、当日の取調べの予定、弁護人等の当時の現在地と検察庁の距離、交通の便等の具体的事情を十分に考察すべきである。本件当時、福島地方検察庁郡山支部と原告安藤の事務所との距離は約一二五〇メートル、原告斎藤の事務所との距離は約七五〇メートル、郡山警察署と原告安藤の事務所との距離は約二四五〇メートル、原告斎藤の事務所との距離は約二六五〇メートルで、いずれも自動車で数分の距離であり、原告らに過重な負担を科したものではないから、接見指定書方式を採ることの利点に対比すると、来庁が原告等らにおいて多少の負担を伴うとしても刑訴法上受忍すべき当然の制約である。

本件においては、右事情のほか、次のとおり、原告らは具体的指定書の記載内容を無視して接見しており、右書面に時間の記載がなかったならば、捜査に支障が生ずるおそれが大だったもので、原告らに接見のための協議及び指定書交付のため来庁を求める具体的必要性があったものである。

(1) 一二月一三日は、具体的指定書の記載内容は午前一〇時から同一一時五〇分までの一時間であるのに、午前一一時一八分から午後〇時三〇分までの七二分間接見した。

(2) 一二月一七日は、具体的指定書の記載内容は午前九時から同一〇時までの四五分間であるのに、午前九時五分から同一〇時二分までの五七分間接見した。

(3) 一二月一九日は、具体的指定書の記載内容は午前一〇時四〇分から同一一時二〇分までの三〇分間であるのに、午前一〇時五八分から同一一時三三分までの三五分間接見した。

三被告県の主張

刑訴訟三九条三項では、「検察官、検察事務官または司法警察職員」が接見の指定をすることができると規定されているが、司法警察職員と検察官等の捜査の統一制を図る見地等から両者の協議に基づき検察官を接見指定権者として統一的に接見指定を行う運用をなしうるものであり、福島県においてもそのように運用されている。

更に、福島県警察においては、福島地検からの依頼に基づき、実務上、接見禁止の決定を受けた被疑者の弁護人等から接見を求められた場合、、検察官が接見について判断する機会が得られるよう、弁護人等が接見のためいわゆる代用監獄に来訪している旨を担当検察官等に連絡するという運用がなされており、接見の指定について弁護人等と接見指定権者が直接協議を行っているものである。

右のような運用状況下においては、弁護人等から接見を申し出られた場合、犯罪捜査を担当しておらず、「捜査のため必要」であるか否か判断する立場にない留置担当官としては、特段の事情のない限り弁護人に対し、指定権者を明示するなど接見指定を受けるための手続手順を示し、直接指定を受けるように求め、あるいは自ら指定権者に申し出を伝達すれば足りるのである。そして、右のような説明を受けた弁護人等は、直接指定権者に自己の希望する日時を述べて協議をしたうえ、いわゆる具体的指定がなされたときにこれに基づいて接見するということとなるのである。

丙沢留置官は、原告安藤からの接見に関する一二月九日の電話問い合わせに対して指定権者を明示し、同月一二日来署した同原告に対して指定権者を明示し、その連絡について便宜をはかろうとしたが、同原告自らが「出直してくる。」と言って退署したものであり、また、同留置官は、同月一九日に来署した原告斎藤につき、検察庁に電話連絡して検察官の所在を確認し、電話による協議について便宜をはかったが、同原告自らが「検察庁に行って出直してくる。」と言って退署したものであり、いずれも、原告らの接見に対し協力しているのであって、「担当検察官発行の具体的指定書を持参しない限り接見を認めることはできない。」と述べて接見を妨害したことはない。

また、一二日と一九日の両日の接見申出はいずれも被疑者Oの取調べ中に行われたものであって、原告らの希望する日時における捜査の必要性の有無の判断は、丙沢留置官としてはできなかった。

加えて、原告らの主張する準抗告決定はいずれも検察官の処分を取り消すもので、丙沢留置官は当事者になっておらず、同人が右決定に拘束される理由はない。したがって、丙沢留置官としては、右決定があった後も、原告らの接見申出に対し従前どおりの対応をすれば足り、本件においては同人の所為に違法はないのである。

第五判断

一事実経過について

1  一二月九日(水曜日)の経緯

原告安藤は、被疑者Oが逮捕された直後である一二月四日午後四時一七分から同五四分までの間に接見したが、勾留後初めて同人に接見するため、同月九日午後一時ころ、丙沢留置官に対し、同日午後四時以降の同被疑者との接見を申し入れたところ、同留置官より、担当検察官に連絡して、具体的接見指定書を持参するように言われた。そこで、同原告は、同日午後一時五分ころ、甲野検察官に対し電話で接見を申し入れたところ、同検察官から、同日午後四時以降は取調べ予定である旨言われたので、同原告は翌一〇日の午前中の接見を希望したが、同検察官は接見指定書によって接見することを希望したため、これをファクシミリで送付することを要請し、同検察官は検討すると返事をした<証拠>。

本件刑事事件は、暴力団組長である被疑者Oが、同組事務所内で被害者を脅迫して金員を喝取しようとしたという事件であり、本件事案の真相の究明のためには被疑者及び関係者の供述しか証拠となりうるものが存しなかったところ、同被疑者は、逮捕後六日目に至っていたにもかかわらず喝取につき否認していたものであり、警察での一二月四日付供述調書一通(その内容は否認)しか作成されていなかった。本件関係者はいずれも同被疑者と関連があって暴力団組長である同被疑者の影響力は大きいとみざるをえず、これら関係者に対し、あるいは関係者と通謀して罪証湮滅を図るおそれがあった<証拠>。甲野検察官としては、同被疑者については関係者の供述と対比しながらその動機に関して詳細かつ早急に、また目撃者については目撃状況等に関し、いずれも取調べの必要性を感じていた。また、Aという男が行方不明になっていたが、事件と深く関わり合いがあるものと考えられたので、その所在を調査し、それが判明すれば同日午後三時に取調べる予定にしていた。

当日、被疑者Oについては、午前九時二一分から同一〇時四分までの診療のための護送や食事時間等を除き、午前八時三一分から同九時一九分、午後二時一八分から同五時三七分、午後六時一九分から同七時二一分まで取調べが行われた。また、午後一時三〇分からと、午後三時からA以外の参考人の取調べが行われて、検察官に対する供述調書が作成された<証拠>。

証人丙沢三郎は、原告安藤からの接見申込みは九日午前九時ころであった旨証言し、電話用紙<証拠>にも同旨の記載があるが、同原告が引き続いて甲野検察官に電話をかけて同日午後四時以降の接見を申し入れていることと対比すると、同原告の丙沢留置官への申し入れは、午後一時ころに同日午後四時以降の接見を求めたものであると認められる。

2  一二月一〇日(木曜日)の経緯

原告安藤は、一二月一〇日午前九時ころ甲野検察官に対し、被疑者Oとの接見を電話で申し入れたところ、同検察官は同日午前九時三〇分ころ電話をかけなおしてきて、「午後四時からの接見を認める。具体的指定書をファクシミリで送付しようとしたが弁護人事務所へは不可能であったので、検察庁に取りにきてほしい。事務員に来てもらってもかまわない。」と言ったので、同原告は、「民間の事務所へファクシミリで送付できないのなら、警察署の方へ送付してほしい。」と要請したが、甲野検察官は相変わらず来庁を希望した。

当時、被疑者Oの取調べの必要性は右1のとおりである一方、Aが九日に出頭しなかったので、一〇日朝取調べる予定にしており、甲野検察官としては、Aの取調べの結果及び前日取調べた関係者の検察官に対する供述調書を参考にして同被疑者を取調べる必要性を感じていた。当日、午前一〇時から午後〇時二分、同一時一一分から同五時七分、同五時四五分から翌一一日午前〇時二五分まで取調べが実施された<証拠>。

原告安藤は、甲野検察官が指定書の受領・持参に固執するので、一〇日正午近く、第一次の準抗告の申立てをなし、午後五時ころ、後記二3(一)のとおりの決定が出た<証拠>。

その日の午後四時三〇分ころ、丙沢留置官から原告安藤に対し、被疑者Oが接見を希望している旨の電話が入ったが、同原告は、準抗告の申立てをして現在審理中であり、翌日は出張なので、一二日には接見に行く、と伝えてくれるよう頼んだ<証拠>。

3  一二月一一日(金曜日)から一二日(土曜日)の経緯

(一) 原告安藤は、一二月一一日は出張したので、同日午前九時三〇分ころ事務所の事務員を介して、甲野検察官に対し、被疑者Oが接見を待っている旨付言して、翌日である一二日午前午後のうちの一時間程度の接見の申し入れをした<証拠>。

他方、被疑者Oは、一一日の取調べで恐喝の犯意を一部認め始めていたので、甲野検察官としては、引き続き取調べを継続して詳細な供述を得てこれを調書化する必要を認めたが、一二日は土曜日で、執務時間は午前中のみであったから、取調べと接見との時間的調整をはかる必要性を感じていたので、一一日午後一時四〇分ころ同原告の事務所に電話をかけ、事務員に対し、「一〇日の準抗告認容決定の内容は一般的指定を取消したにすぎない。接見日時の打ち合せのため明日午前九時半に検察庁に来庁されたい。具体的指定は指定書をもってする。」と伝えた<証拠>。

同原告は、事務員から電話の内容を聞き、進展がないので、一二日午前九時ころ、第一次準抗告決定書持参のうえ直接郡山警察署に出向き、丙沢留置官に被疑者Oとの接見を求めたが、丙沢留置官は、「決定は知らない。被疑者は検察官の身柄であるから、検察官に無断では会わせられない。」と発言した<証拠>。

(二) 原告安藤は、被疑者Oに接見できなかったので、同日午前九時三〇分ころ第二次準抗告の申立てをなしたところ、担当の清水裁判官が同原告と甲野検察官とを裁判所に呼び、事情聴取の結果、同検察官には指定書なしでの接見を認めるよう、また同原告には準抗告を取下げるよう勧告したが、甲野検察官の拒否で話はつかなかった。そして、午後六時近くに、後記二3(一)のとおり準抗告の決定が出た。

そこで、同原告は、午後六時過ぎころ、甲野検察官に対し被疑者との接見を求め、接見指定は口頭ですることを求めた。甲野検察官は本庁の丁海次席検事と相談するとのことであったが、従前と同様に指定書をもって指定するとの回答を受けた同原告は納得がいかなかったので、直接次席検事に電話をしたところ、具体的指定書をもって指定するので来庁して受領するよう協力してほしいといわれたので、同原告は、午後七時ころ地検郡山支部に出向き、翌一三日(日曜日)午前一〇時から同一一時五〇分までの間の一時間とする接見指定書を受領した。なお、一二日の被疑者Oの取調べは、午前八時二四分から午後〇時八分まで実施されていた<証拠>。

4  一二月一四日(月曜日)から一七日(木曜日)の経緯

検察庁において、甲野検察官の仕事が過重であったため、一二月一四日付で本件は乙川検察官に割替えとなった<証拠>。

原告安藤は、一四日午後四時四〇分ころ、乙川検察官に対し、取調べの予定と衝突することのないように早めに電話をかけ、一六日午後一時から同六時までか一七日午前午後のうちの一時間、被疑者Oとの接見を求めた<証拠>。

当時の本件取調べ状況は、被疑者Oは一旦恐喝の犯意を認めはしたものの、その旨の調書は作成されておらず、その後再び否認するようになっていたものであるから、残された勾留期間も少なく、早急に被疑者O及び関係者を取調べる必要があった。そこで、乙川検察官は、原告からの接見申し入れを受けて、警察へ連絡して取調べ予定を確認した<証拠>ところ、同被疑者は、一四日は午前八時三八分から同一一時五〇分まで、午後一時五二分から同四時四九分まで警察において取調べられ、その後の時間帯にも取調べが予定されており、実際午後六時三四分から同七時四八分まで取調べられている。さらに、一六日、一七日にも午前中から取調べが予定されていた<証拠>。

乙川検察官は、右状況からして一時間もの接見は捜査に支障をきたすから困難であるうえ、一二日に接見しているので通常の二〇分間程度で十分であり、また原告安藤も仕事があるであろうから、その希望する接見時間の真意を知りたいと思い、来庁を求めたうえ協議しようとして、同月一六日午前九時一五分ころ、同原告に電話をかけ、「被疑者Oの接見について打ち合わせをしたいので来庁されたい。希望の一時間は長過ぎるので、二〇分位にしてもらいたい。第一次、第二次準抗告の決定は甲野検察官に対するもので、自分は拘束されない。」といった<証拠>。

これに対し、同原告は一時間位では捜査の障害になるとは思えない、指定するというのであれば、口頭でやって欲しいと回答したが、乙川検察官が来庁を強く要請したので、同原告は、新たに弁護人となった原告斎藤と共に、同日午後六時三〇分過ぎころ地検郡山支部に出向き、口頭での指定を要請し、指定書の受領を主張する同検察官との間で一時間以上交渉した結果、やむなく午前九時〇分から同一〇時〇分までの間に四五分間とする一七日の接見指定書を受領した<証拠>。

証人乙川は、原告安藤からの接見申し入れは一二月一六日の昼ころであると証言し、同人作成の報告書<証拠>にもその旨の記載があるが、原告安藤が接見交通権の確立に意を砕き、本件において検察官との交渉を意識的に行っていたことに鑑みると、一二月九日からの接見申し入れが、いずれも捜査の予定ということで希望がすぐに実現しない状況であったため、一六日または一七日の接見につき早めに申し入れをしたと弁解するのも頷けるので、右申し入れは一四日にあったものと認める。

5  一二月一九日(土曜日)の経緯

原告斎藤は、同日午前九時ころ被疑者Oとの接見に関し、原告安藤の事務員を介して乙川検察官に電話をかけたが、休暇で留守と回答されたため、同日午前九時一五分ころ直接郡山警察署に出向き、丙沢留置官に同被疑者との接見を求めた。同留置官は、「検察官の身柄であるので検察官の了解なしに接見させることはできない。」と言ったうえで乙川検察官に電話をしたところ、登庁していた同検察官は、電話を替わった原告斎藤に対し、「接見の協議のため、検察庁に来庁して欲しい。」と繰り返し、同原告の口頭による指定の要請に応じなかったので、同原告は、その場から地検郡山支部に出向いた<証拠>。

当時警察において、午前九時一〇分から昼までの予定で被疑者Oの取調べを行っていた最中であったが、乙川検察官は、原告斎藤が午前中の接見を強く希望したので、同原告と協議した結果、警察の取調べを中断させて、同日午前一〇時四〇分から同一一時二〇分までの間三〇分とする接見指定書を作成して同原告に交付した<証拠>。

接見の結果、被疑者Oは頭痛をひどく訴えるので、原告らは同被疑者の勾留理由開示の申立てを行った<証拠>。

なお、証人丙沢は、原告斎藤からの接見申し入れは一九日午前一〇時一〇分であった旨証言し、電話用紙<証拠>にも同旨の記載があり、また同原告からの検察官の在不在を聞いてくれと言われて検察官に電話を入れ、電話を終えた同原告が、出直してくると言って出ていき、同一〇時五〇分に原告らが連れ立って来署し、指定書によって接見を求めたとの記載がある。しかし、電話連絡帳<証拠>によれば、原告斎藤が同安藤の事務所を訪れたのが午前九時一分である一方、指定書<証拠>によれば、午前一〇時四〇分から同一一時二〇分までの間の三〇分間接見を認める指定となっており、捜査報告書<証拠>によれば、郡山警察署から地検郡山支部までの距離は約3.1キロメートルで、自動車で約八分であることから、乙川検察官は往復の時間等を考慮のうえ指定しているはずであり、同人もその旨証言し、また丙沢留置官から電話がかかってきたのは午前九時三〇分過ぎころであるとも証言するので、電話の前に原告斎藤と丙沢留置官とが交渉したことを考慮すると、同原告が当初郡山警察署を訪問したのは、午前九時一五分ころであったものと認める。

6  一二月二二日(火曜日)から二三日(水曜日)の経緯

原告安藤は、一二月二二日午後五時三〇分ころ、乙川検察官に対し電話をかけ、翌二三日の朝か夕方に被疑者Oと三〇分位接見したい旨申し入れたが、同検察官から「警察と協議しておくので、午後六時ころ指定書を受け取りに来てほしい。」と言われた<証拠>。

ところで、被疑者Oの勾留期間は二四日までとなっており、二三日午後三時には勾留理由開示手続が予定されていたが、同被疑者は依然として曖昧な供述に終始していたので、乙川検察官としてはさらに詳細な取調べを行ったうえ事実の真相を把握し、起訴・不起訴の処分を決しなければならないという予定にしていたので、同検察官は接見日時指定のための協議を行う必要を感じ、まず、警察へ連絡して取調べ予定を確認した<証拠>。

実際、同検察官は、二三日には、午前八時五六分から同被疑者の取調べを開始したが、接見の申し入れがあって、同九時に中断したものの、その後同九時三二分から同一〇時二二分まで、午後二時五七分から同四時二一分までの勾留理由開示手続の時間を除いた同二時三〇分から同五時三一分まで、二四日には午前九時二分から同一一時三〇分、午後〇時五七分から同一時五八分、同五時二二分から同六時二七分までいずれも取調べを行い、二四日付で検察官調書を二通作成した<証拠>。また、二三日には、被害者及び参考人を取調べ、検察官調書を作成した<証拠>。

原告安藤は、口頭での具体的指定を主張したが、乙川検察官が来庁要請を変えなかったので、やむなく同日午後六時ころ地検郡山支部に出向き、日時を協議した結果、二三日午前九時〇分から同九時三〇分迄の間に三〇分間とする接見指定書を受領した<証拠>。

二接見交通権の侵害について

1  接見指定権の意義及び接見指定の要件

憲法三四条前段は、何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留または拘禁されることがないことを規定し、刑訴法三九条一項はこの趣旨に則り、身体の拘束を受けている被疑者・被告人は、弁護人等と立会人なしに接見し、書類や物の授受をすることができると規定する。この弁護人等との接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人等の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人等からいえば、その固有権の最も重要なものの一つであることはいうまでもない。そして、被疑者の多くは必ずしも法律的知識に富んでいないから、身体が拘束された場合には、自己に有効な防御活動をし、公判にむけて、あるいは不起訴にむけて自己に有利な証拠の収集・保全をなすためには弁護人等に頼るところが甚だ大きいのであって、弁護人等もその職責を全うするため随時被疑者と接見し、被疑者の不安を取り除き、捜査機関の違法捜査の存否を監視し、被疑者にとって有利な証拠を取り出す作業をしなければならないのである。

ところで、刑訴法三九条三項はその本文で、弁護人等と被疑者との接見交通につき、捜査機関が捜査のため必要があるときは、日時、場所、時間を指定することができる旨規定するが、弁護人等の接見交通権が前記のように憲法の保障に由来するものであることを考えると、捜査機関の日時等の指定は、一つしかない被疑者の身柄の取扱いをめぐって、捜査と接見が衝突するのを回避するためのあくまでも必要やむをえない例外的な措置であると解さなければならない。

捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申し出があったときは、原則としていつでも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分・検証等に立ち会わせる必要がある等被疑者の身柄を拘束した捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議して、できるかぎり速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることができるような措置を採るべきである(最高裁判所昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁)。

そして、右のとおり、弁護人等の接見交通権は憲法の保障に由来するものであって、捜査機関による接見の指定はあくまでやむをえない例外的措置であることを考えると、刑訴法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」とは、単に取調べ予定であるというのでは足りず、現に被疑者を取調べ中であるとか、検証、実況見分に立ち会わせ、被疑者自身から指示または供述を得る必要がある、あるいは身体検査・鑑定等被疑者の身体そのものを必要とする捜査が現に行われている等捜査の中断による支障が顕著な場合に限定して解釈すべきである。さらに、右にいう「捜査の中断による支障が顕著な場合」とは、捜査機関が被疑者の身柄を現にその支配下において取調べをしている場合及びこれに準じる場合に限るべきであって、一般的な罪証湮滅の防止をも含む捜査全般の必要性をいうものではないと解するのが相当である。

しかし、身柄の拘束には時間的制約があるので、弁護人等の接見交通権と捜査機関の接見指定権との均衡調和を保つため、弁護人等としては、監獄の長等直接接見指定権者以外の者に被疑者との接見を申し出た場合、または後記三のとおり接見指定権を行使する立場にない警察官に被疑者との接見の申出をしたときは、右警察官等において弁護人等に対し、接見指定権者を明示する等接見指定を受けるための手続手順を示し、直接接見指定権者に指定を受けるよう求め、かつ右申出を接見指定権者に伝達して、弁護人等からの接見申し入れにつき検討する機会を与え、これを受けた接見指定権者においては、右各事項について調査検討し、指定の方法等については弁護人等と協議のうえ前記最高裁判所の判例の趣旨に従った措置を講ずるべきであり、このような手続きに要する必要かつ相当な合理的時間は、接見が制約されてもやむをえないところであるから、その間弁護人等が一時待機を余儀なくされたとしても違法ということはできない。弁護人等としては、右の手続が右制約時間内に行われないか、捜査のための必要性がないにもかかわらず接見が制限された場合等に接見指定権者がなしたそれらの措置の違法性を問えば足りるものである。一方、接見指定権者が、指定の要件がないのに接見のための日時等を指定または指定しようとして弁護人等に接見の機会を与えないことは、指定の方式以前の問題として違法であるといわねばならない。

2  一般的指定処分について

従来の検察実務においては、昭和三七年九月一日の法務大臣訓令事件事務規程二八条に基づき、個々の検察官が個別の事件毎に「接見等に関する指定書」を発しその謄本を監獄の長に送付するのが通例であり、この場合、監獄の長は、弁護人等が接見指定なく接見を求めてきたときは検察官の接見指定書がなければ接見させないという運用がなされており、これを一般的指定と呼んでいた。が、第一、三に記載したとおり、福島県下においては、右のような方法ではなく、近時福島地方検察庁が包括的に福島県警察本部に対しなした事前連絡指示の通知に従うという運用がなされていた<証拠>。

右のような通知は、弁護人等から直接監獄の長に対して接見の申し出があった際、検察官がその具体的指定権を円滑かつ確実に行使できるよう、当該事件については具体的指定権を行使する旨をあらじめ監獄の長に通知する内部的な事務連絡であって、一般的指定処分ではないものと解され、その要否の判断が適切になされてさえいれば、右通知自体を違法な処分であるとすることはできないものである。

なお、原告安藤は、甲野検察官も昭和六一年八月二五日午後四時三〇分ころ代用監獄郡山警察署長に対し、今後接見禁止決定を受けた被疑者の弁護人等から右被疑者との接見を求められた場合には、別に検察官の発する具体的指定に従って行われたい旨の指示をなしたと供述し、電話聴取書<証拠>にもその旨の記載があるが<証拠>によれば、その当時既に福島地方検察庁及び福島県警察本部の間で前記通知に基づく運用がなされていたのであるから、同検察官が重ねて同種の指示をなす必要もないのであって、あえて重複指示をしたと認めうる状況の立証もないのであって、甲野検察官が右指示をしたことを認めることはできないし、仮にその旨の指示をなしたとしてもその趣旨が内部の事務連絡の性質を有するものである以上、検察官のなした接見に関する処分とはいえない。

3  準抗告の決定と取消決定に対する違反について

(一) 第一次準抗告は、「甲野検察官が原告安藤に対しなした、福島地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これを持参しない限り被疑者Oとの接見を拒否する、との処分の取消、及び甲野検察官は同原告と被疑者Oとの接見を接見指定書持参の有無を理由として拒否してはならない。」との申立てに対し、「甲野検察官が原告安藤に対しなした福島地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これを持参しない限り被疑者Oとの接見を拒否するとの処分はこれを取消す。」と決定したものであり、その中で、甲野検察官が昭和六一年八月二五日午後四時三〇分ころ郡山警察署長にあてて、今後接見禁止のあった事件について弁護人等から接見の申出があった場合には検察官の発する指定書を持参しない限り接見を認めないという取扱いをされたいとの連絡をなしており、その旨電話で警察官や検察官から原告安藤に通知されたことによって同検察官による接見指定書の受領・持参がない限り接見を一般的に拒否するとの処分が行われたと認めるのが相当である旨、認定されている<証拠>。

第二次準抗告は、「①甲野検察官が、昭和六二年一二月一一日原告安藤に対しなした、福島地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これを持参しないかぎり被疑者Oとの接見を拒否するとの処分の取消、②甲野検察官は刑訴法三九条三項の指定を電話等口頭で行い、かつ同原告が指定書を持参しなくとも指定された日時に被疑者と接見させること、③甲野検察官が、昭和六二年一二月一一日原告安藤に対しなした、福島地検郡山支部に来庁しない限り被疑者との接見を拒否するとの処分の取消、④甲野検察官は同原告に対し、昭和六二年一二月一二日午後一時以降同月一四日午後六時までの間、接見指定書の持参を条件としないで、引き続き少なくとも一時間接見させること、⑤甲野検察官は、昭和六二年一二月一二日以降、同原告から被疑者Oとの接見の申出があり次第直ちに右接見を許可すること」との申立てに対し、「甲野検察官が昭和六二年一二月一一日原告安藤に対しなした、福島地検郡山支部で検察官の接見指定書を受取り、これを持参しない限り被疑者Oとの接見を拒否するとの処分を取消す。甲野検察官は同原告に対し、同人と被疑者Oとの接見につき、刑訴法三九条三項の指定を電話等口頭で行い、かつ同原告が指定書を持参しなくとも指定された日時に被疑者と接見させることをしない限り、検察官は、同原告に対し、接見を拒否してはならない。」と決定したものであり、その中で、第一次準抗告決定は接見指定書を受領・持参する方法の具体的指定処分を取り消したものとの認定をなし、具体的指定にあたっては捜査機関及び弁護人等の双方にとり合理的かつ相当な方法によるべきであり、具体的指定書の持参を常に要求することは相当性を欠くものである旨の解釈が示されている<証拠>。

(二) 取消決定の効力

本件第一次及び第二次準抗告決定は、右のような口頭による一般的接見禁止処分(これが検察官によってなされているとの前提に立ったうえ)を取消し、かつ指定書の受領・持参要求という検察官の指定方式を違法な処分であるとして取消したものと認められるものであり、適法に確定した以上、この裁判は、その事件について、当事者たる関係行政庁を拘束する。すなわち、当該取消事件そのもののみではなく、取消にかかる行政処分の対象たる法律関係につき、同一事情のもと、同一の理由によって、同一人に対する同一内容の処分を繰り返すことが禁止されると解される。また、取消決定を受けた行政庁は、直接の担当者の交替があったとしても、以後右禁止効に従わねばならない。すなわち、本件にあっては、原告安藤の被疑者Oとの接見申し入れに対し、検察官は、口頭による一般的接見指定の指示及び原則として指定書の受領・持参という具体的接見指定方式の各処分を繰り返し行うことが許されないと解すべきである。その場合でも、検察官に刑訴法三九条三項の接見指定権そのものがなくなるわけではないが、問題とされた指定権行使のあり方(指定書という書面による行使の方法)自体が否定されたのであるから、検察官としては、一般的指定がなされておらず、かつ具体的指定権を行使するに際して書面を用いない方法で行うという接見指定の運用をすべきであるというのが理論的帰結である。

現に福島地方検察庁郡山支部において、昭和六一年八月に一般的指定の取消決定がなされた際、その時の弁護人でもある原告安藤は、いつでも接見できるという扱いを受けたというのである<証拠>。

したがって、甲野検察官が、本件各準抗告決定に従わず、かつ、丙沢留置官に対し、「一般的指定が取消されても接見指定の方法については、従来どおり検察官と弁護人等とがあらかじめ具体的な日時を調整して決め、具体的指定書を持参してもらう形で運用する。」旨指導した措置<証拠>及び甲野検察官の事務を引き継いだ乙川検察官が本件各準抗告決定に従わなかった措置は違法というべきである。

4  具体的指定書の受領・持参要求の違法性

<証拠>によれば、検察庁の実務では接見の指定は書面でするのが原則であることが認められる。

ところで、刑訴法三九条三項は、検察官が接見指定をする場合の方式について明示していないので、法はこれを検察官の合理的裁量に委ねているものと判断できるが、弁護人等の接見交通権を実質的に侵害するような方式を選定することは、検察官に委ねられた合理的裁量の範囲を逸脱するものとして違法と解されるべきものである。そこで、円滑、確実かつ迅速な接見交通を確保するために、その指定を書面で行うべきか否か、またその伝達方法いかんなどの方式が問題となる。書面による指定の方法は手続の明確性を確保するとともに、接見場所での無用のトラブルを防止し弁護人の接見交通の円滑化を図り、更には不服申立てがあった場合の審判の対象を明確にするなどの利点があるが、反面、その作成、伝達等に時間を要し、迅速な接見交通を害するおそれがあるという欠点がある。これを比較考量すると、検察官としては、円滑、確実かつ迅速な接見交通を害さないで、書面による指定を行うことは許されるものというべきであるが、書面によることで無用の時間と手続きを要するときは、電話等の口頭で指定を行うか、ファクシミリで書面を送付して指定する等適宜の方法でこれを行うべきである。

本件のような具体的指定書の受領・持参要求は、弁護人等に対して、検察庁への出頭、具体的指定書の受領・監獄への右指定書の持参という負担を負わせるものであって、一般的にはこれにより弁護人等の迅速な接見は阻害されるものと解される。したがって、書面により手続の明確性をはかるためであっても、書面の受領により弁護人等の迅速な接見の権利を害さない特別の事情のある場合、すなわち、弁護人等が既に検察庁に在庁している場合あるいは接見予定時刻までまだ余裕があり、かつ弁護人等が検察庁まで受け取りに行くことを任意に了承した場合等に限り、その受領・持参要求は適法になるものというべきである。他方、当該事案における被疑事実の内容、捜査の具体的状況、当日の取調べの予定、弁護人の当時の現在地と検察庁の距離、交通の便等の事情は、前記接見交通権の意義からみて、むしろ考慮に入れるべき事情ではないこととなる。

本件においては、右事情のほか、留置人接見簿<証拠>によって、第四、二3(二)の被告国主張のとおり、原告らは具体的指定書の記載内容と一致しない時間の接見をしているが、その誤差はいずれも数分内であるうえ、指定時間を経過して接見したことが捜査の具体的支障となったか否かについては明らかではなく、他方、右書面の受領・持参に要する弁護人等の負担と対比した場合には、過去に右のような接見をしたからといって、原告らに接見のための協議及び指定書交付のため来庁を求める具体的必要性があったものとは認められない。

5  執務時間外の接見について

監獄法施行規則一二二条は、接見は執務時間内でなければこれを許さない旨規定し、被疑者留置規則実施要綱(昭和五五年警視庁通達甲第四五号―甲第七九号証)は、(1)接見は、原則として休日を除き、午前八時三〇分から午後五時一五分(土曜日は午後〇時三〇分)までの間に、接見室において行わせるものとする、(2)弁護人等が(1)以外の日時に接見を申し出た場合には、直ちに接見させなければ留置人の防御権行使に支障がある場合等特別の事情が認められ、かつ捜査上及び保安上支障がないときは、これを認めるものとする旨定めている。思うに、接見に際し、被疑者の身体の安全を確保しつつ、逃亡、罪証湮滅等を防止し、戒護に支障のあるものの授受を防止するには、十分な保安態勢、監護態勢が要請されることに照らし考えると、防御権行使に支障がある緊急の場合の接見交通権を保障したうえで、原則として執務時間外の接見は認めないとする右制約は合理性を有するものというべきであって、福島県においても同様の慣行であり<証拠>、緊急であるという特段の事情の認められない本件において、執務時間外であることを理由に接見を拒否したからといって、違法とはいえない。

三被告権の責任

接見指定権者につき、刑訴法三九条三項では「検察官、検察事務官または司法警察職員」と規定されているが、第二、三記載のとおり、福島県においては、福島地検から福島県警察に対する事前連絡指示がなされ、司法警察職員と検察官との間の捜査の統一性を図る見地等から、捜査全体を最も的確に把握している捜査主任官たる検察官が統括し、同人が接見指定権者として統一的に接見指定を行う運用をしているが、これは是認されるべきものであると解される。けだし、当該時期における当該被疑者の取調べの重要性、取調べの継続予定、接見のための取調べ中断の可否等捜査全般の必要性と接見交通権の調整について、最も実質的に判断できるのは当該事件の主任捜査官であり、被疑者が検察庁に送致された後の主任捜査官は検察官であるからである。そして、主任検察官は、接見の指定について弁護人等と直接協議を行って決定をする運用となっている。

ところで、留置担当官は、犯罪捜査をしておらず、接見指定のための「捜査の必要性」の有無を判断できる立場にないのが通常であるうえ、前記のような運用状況下においては、弁護人等から接見を申し出られた場合、留置担当官としては、例外的に担当検察官から連絡が不要である旨の指示を受けている場合のような特段の事情のない限り、弁護人に対し、指定権者を明示するなど接見指定を受けるための手続手順を示したうえ、指定権者に直接指定権行使の意思の有無につき確認するように求め、あるいは自ら指定権者に弁護人等からの申し出を伝達すれば足りるのであり、留置担当官が独自の判断で即時弁護人等に接見させなかったとしても、それをもって違法ということはできないというべきである。

本件において、丙沢留置官は、原告安藤からの接見に関する一二月九日の電話問い合わせに対し、及び同月一二日に来署した同原告に対して指定権者を明示しているし、同月一九日には検察庁に電話連絡して検察官の登庁を確認し、弁護人からの接見申し出を伝達して、電話による協議について便宜を図るなどしているのであって、それ以降は弁護人と接見指定権者である検察官との折衝に委ねられたのであるから、特段の事情が認められない本件においては、丙沢留置官の行為がそれ自体接見妨害であって、接見交通権を侵害したものとして国賠法一条一項の適用上違法な行為と判断することは相当ではない。

更に、本件第一次及び第二次準抗告決定の後であっても、検察官には具体的指定権が存するのであるから、そのためにも、前記のような連絡を検察官に対しなせば足りるものであり、同様に違法はない。

四具体的指定権の行使に関して甲野・乙川両検察官がとった措置の違法性について

1  一二月九日(水曜日)について

前記のとおり、原告安藤から電話での接見の希望のあった同日午後四時以降には、被疑者O及び関係人の取調べが予定されていたものであるところ、同原告は甲野検察官の説明を受けて、まもなく一応納得し、翌日に希望を変更しているのであるから、九日の接見を甲野検察官が認めなかったとの同原告の主張は、接見に関する具体的指定権行使の要件の存否を判断するまでもなく、接見妨害と評価できないもので、甲野検察官の措置は違法ではない。

2  一二月一〇日(木曜日)の接見妨害

前記最高裁判決でいう「捜査の中断による支障が顕著である場合」とは、捜査機関が被疑者の身柄を現にその支配下において取調べをしている場合及びこれに準じる場合に限られることは前述したとおりであるところ、原告安藤による一〇日午前中の接見申し入れは、前日の九日のうちに行ったものであり、一〇日の捜査の必要とは単に捜査の予定にすぎず、右解釈にいう捜査の必要があったものとは認められない。これは、当日の午後四時からの接見を認めていることとは関係はない。しかも、甲野検察官は午後四時以降に接見させる旨電話で同原告に伝え同人も了承したのであるから、接見指定権の行使はそれで十分であり、検察官は右具体的指定の内容を留置担当官に連絡すれば足りると考えられ、それ以上に接見指定書の受領・持参を要求することは原告に過度の負担を強いることとなって違法である。

3  一二月一一日(金曜日)から一二日(土曜日)の接見妨害

(一) 原告安藤は、一二月一二日午前中の接見の申し入れを前日の一一日午前九時三〇分ころなしたものであり、2と同様に、申し入れのあった時点では、単に捜査の予定にすぎず、捜査の必要があったものとは認められない。

(二) 原告安藤による同月一二日の、同日(土曜日)午後または一三日(日曜日)午前中の接見申し入れは、一二日午後六時五分ころになされたものであるところ、いずれも執務時間外の接見申し出であって、前記六のとおり監獄法施行規則一二二条及び被疑者留置規則に違反して認められないから、一二日午後における接見を認めなかったことは違法ではない。

翌一三日午前中の接見については、甲野検察官は、執務時間外であるのに、同原告の便宜を図ってこれを認めたものではあるが、具体的指定は指定書をもって行うと明言する以上、受領しなければ接見できないというに等しく、右原告が指定書を検察庁に受取りに行かざるをえない状況にした点については違法がある。

4  一二月一四日(月曜日)から一七日(木曜日)の接見妨害

前記認定のとおり、この時の接見指定の内容は、原告らの希望をふまえ、協議した結果であるところ、接見時間の長さについては、一時間の希望に対し結果的に四五分間に短縮するために一時間以上の協議がなされたものであって、原告らがこれを了解したのは、接見するためにやむをえなかったからであることからすると、接見指定権の行使に行き過ぎの点があったものと認められる。さらに、右協議及びその結果を留置担当官に知らせることは電話で十分可能であったと認められ、協議及び具体的指定書を受領するために検察庁まで出向く必要性は認められず、これを求めた乙川検察官の行為には違法性がある。

5  一二月一九日(土曜日)の接見妨害

当日、原告斉藤が電話をかけたとき、乙川検察官は休暇予定で登庁していなかったのであるから、同原告が直接警察署に赴いたのはやむをえない措置であり、その後、同検察官に電話で接見の申し入れをした時点では取調べが開始してしまっていたことは、同原告にその責めを負わせるべきではなく、したがってそれのみで捜査の必要性があるとは認められない。そして、右電話において、同原告の接見希望時間の調整をはかることができたはずであり、同原告はまさに郡山警察署に来ていたのであるから、調整協議、具体的指定書の受領・持参のためにわざわざ地検郡山支部まで出頭を求めたことは同原告に過度の負担を強いるものであって、違法の誹りを免れない。

6  一二月二二日(火曜日)から二三日(水曜日)の接見妨害

原告安藤は、一二月二二日午後五時三〇分ころ、翌二三日の朝か夕方に被疑者Oと三〇分位接見したい旨申し入れたのであって、右申し入れ時点では、被告らが主張しているのは単なる捜査の予定にすぎず、捜査の必要があったものとは認められない。よって、さらに、協議、指定書の受領のため地検郡山支部に来庁を要請した行為は重ねて違法である。

五国賠法一条一項の違法性の判断基準について

同条項にいう違法性は、処分ないし法的行為の効力発生要件とは性質を異にするものであって、その意味では、他人に損害を加えることが法の許容するところであるか否かという見地からする行為規範性であることは、被告ら主張のとおりであるが、接見交通権の行使の要件を定める刑訴法三九条三項は、本来自由であるべき弁護人等の接見交通権に捜査機関が制限を加えることができる場合の要件を定めた規定であるところ、同法にいう違法性は、国賠法一条一項の違法性と関係当事者・被害法益の点において共通であり、弁護人等の接見交通権はいかなる範囲で捜査機関による制限を受忍しなければならないかという判断の基礎においても共通であるのであって、それからすると、刑訴法三九条三項は行為規範をも定めたものと解するのが相当である。したがって同条項の関係において違法と判断された以上、国賠法一条一項の関係においても、その接見交通権の侵害は法の許容しないところであるというべきである。加えて、検察官に与えられた権限を逸脱した行為の違法性を判断するにあたり、被告らの主張するような限定を付して解釈することは必ずしも妥当ではない。

六甲野・乙川両検察官の故意過失について

1  前記認定のとおり、本件においては、一般的指定処分は存在していないのであるから、これにつき両検察官の故意過失は存しない。

2  準抗告による一般的指定取消決定後の接見の妨害について

判例時報<証拠>、ジュリスト<証拠>及び判例タイムズ<証拠>によれば、一般的指定取消決定の効力については、(1)接見自由の原則に返り、捜査機関が消極的指定をしない限り、弁護人等は自由に接見できるとする説、(2)既に被疑者の防御権に不当な制限があるとされたのであるから、捜査機関としては、ただちに防御権の確保に必要な最小限度の接見をさせなければならないとする説、(3)接見指定権が円滑かつ確実に行使されるための措置は必要であるから、捜査機関の接見指定権の行使にはなんの影響もないとする説等の見解が対立していたこと、実務上も、決定後も本件と同様に従前どおりの取扱いをした事例と、自由に接見を認めた事例とがあること、右効力について確定した最高裁判例も存しないことが認められる。このように、一般的指定取消決定の効力については、その法律解釈に異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれ、いずれについても相当の根拠があるのであるから、甲野・乙川両検察官が一方の見解に立脚して、取消決定後も一般的指定があるのとほぼ同様の状態を継続したこと、及び甲野検察官が「従前通りの取扱いをすべき」旨を警察の留置担当官に指示したことには、故意過失があったものとはいえないと解するのが相当である(もっとも、その方式についてまで従前通りの取扱いが許されるものではないことは前述のとおりである。)。

3  捜査の必要性について

刑訴法三九条三項の「捜査のため必要があるとき」の意義について、前示二1のとおり解すべきであることは、前示二1の最高裁判決によって確立され、その後の下級審判決の動向等に照らし、右判断は実務において確立した判断となっているものと解されるから、昭和六一年当時、接見禁止決定に関与する公務員は前示の見解に従って接見指定をなすべき義務があり、その義務に違反した場合には少なくとも過失が認められるものである。

そして、右判決によって、検察官が接見指定権を行使する際には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定すべきであるとの点も確定した見解となったものと解されるから、これに反するときは故意過失が認められると解するのが相当である。

4  具体的指定書の受領・持参要求について

前記のとおり、結果的に接見指定の要件がないにもかかわらず(原告らから電話を受けたとき、検察官においてすぐには捜査の必要性につき判断できなかったとしても、警察に問い合わせて折り返し連絡できるはずであるから、本件の場合いずれも接見指定の要件がないことはそれほど時間をかけなくとも判断できるはずである。)、弁護人に対し具体的指定書の受領・持参を要求することには、これを相当とする根拠が認められないから、少なくとも過失が存在するといえる。それに加えて、接見指定の要件があったとしても、第二次準抗告の決定によって、検察官は本件被疑事件において具体的指定書による接見指定を禁止されたのであるから、右決定確定後において具体的指定書の受領・持参要求をなしえないことは明らかであって、故意が認められる。

七原告らの損害について

1 前示一1ないし6及び四2ないし6のとおり、原告安藤が一二月一〇日、一一日、二二日に行った接見申出に対し、甲野・乙川両検察官の違法な行為によって接見が認められず、同原告による同月一〇日、一一日、一二日、一四日、二二日の、原告斎藤による同月一九日の各接見申出に対し、甲野・乙川両検察官の違法な行為によって具体的指定書の受領・持参を余儀なくされたものであり、この結果、原告安藤が準抗告の申立てをせざるをえず、また、同原告が原告斎藤に相弁護人となることを依頼することにもなったものである。

2  右のとおり、原告安藤が、五回にわたって違法な接見妨害に会い、自己が尽くすべき弁護人としての職務の遂行が妨げられ、また準抗告申立てのため時間と労力を必要とし、さらに被疑者O及び関係人への説明に苦慮したのであるから、同原告が右一連の接見妨害により精神的損害を被ったことは明らかである。

また、原告斎藤も自己の接見が一回違法に妨害されて職務の遂行が妨げられ、さらに、途中から、既に四回の妨害に会っている原告安藤の相弁護人となって同様に時間と労力を要したのであるから、やはり右一連の接見妨害により精神的損害を被ったことは明らかである。

3 右のような精神的損害が検察官の違法な行為によって生じたもので、かつ、右行為に少なくとも過失が認められる場合には、この精神的損害は、弁護人として当然負担すべき職務の範囲内のものであるということはできない。また、原告安藤の第一次、第二次準抗告が認容されたことは前示二3(一)認定のとおりであるが、その後の経緯に照らすと、それらによって同原告の精神的損害が生じない、あるいは補填されたということもできないし、刑事訴訟関係人である弁護人の接見が妨害された場合、その地位にある弁護士個人に精神的損害が発生しなかったともいえない。したがって、損害に対する被告らの主張はいずれも採用できない。

4  以上認定のとおり、本件記録に顕れた諸般の事情を総合すると、原告安藤の右精神的苦痛を慰謝するためには五〇万円を、原告斎藤の同苦痛を慰謝するためには金二〇万円をもってするのが相当であると認める。

八仮執行宣言は相当でないから付さない。

(裁判官沼里豊滋 裁判官関洋子裁判長裁判官今井俊介は転補につき、署名捺印することができない。裁判官沼里豊滋)

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